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    水木しげるの妖怪画とボンクラ

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     子供のとき、水木しげるの、世界の妖怪とか、世界の悪魔とか、鬼太郎入門とか、そんな本が大好きだった。三つ子の魂百までとは言うが(百歳になったら死ねということか?)、子供のときむさぼるように読んだそれらの本は自分のオカルティズムの原風景だ。ふしぎなものを、ふしぎだなぁすげえなぁと感じるようになったのは、まさに水木しげるの妖怪画が脳に刷り込まれて以降であった。

     水木しげるの妖怪画は、世相とその時代に生きるボンクラを可視化したものだ。

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     わたしのように、フィクションを愛し、ノンフィクションは全部冗談にして笑い飛ばしてしまえ! というボンクラテイストを掲げる人間たちはおおよそ「B級」というレッテルを貼られている。ああいうひとたちを見ているとばかになりますよ、という印象付けが識者や教師や親によってなされている。だがちょっと待ってもらいたい。暴論だと承知で書くが、ボンクラになると何か困るのか?

     水木しげるの妖怪画に、『お棺の蓋』というものがある。これは中国の怪談で、出先から帰路に就いた男が回転しながら空を飛ぶ棺桶の蓋に追いかけ回されるという話だ。
     シュールな絵ヅラでしょう。おもしろいでしょう。意味がわからないでしょう。結局この話は、命からがら逃げ帰った男が振り返るともう朝で、棺桶の蓋なぞどこにも見えなかったという、オチもサゲも無いお話で、ただ何か知らないけど意味不明に追いかけてくる回転する棺桶の蓋のものすごさだけが強調されたお話だ。
     ね。おもしろくないですか? ボンクラの本質なんて、このお話にある「おもしろさ」と大差ない。ボンクラが棺桶の蓋で、普通の人はそれから逃げる男。そう例えると、ボンクラが如何に無敵で意味がなくて最高に贅沢なものか理解できるでしょう。

     ボンクラにだって理解力、読解力はある。そこが不自由な人間はボンクラではなくアスペルガーか自閉症なのでこれまた系統が違う。ボンクラの理解力は、都合のいいものをどこまでも都合よく受け取り。都合の悪い話は聞こえませんとそっぽを向く洒脱さだ(これが本当の「洒脱」だ)。
     都合の悪い話にさえ耳をふさいでおけば世の中どうとでもなるもので、おおよその出来事でイニシアティブを取りやすくなる。何故ならボンクラだから。人の迷惑を考えないから。頭が悪いから。下品だから。不謹慎だから。故に強いから。

     だからボンクラは妖怪呼ばわりされ、悪魔視される。まったく名誉なことである。

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